〜プロローグ〜
暗く荒れた路地裏
ここに人の行き交いがあったのはもう数十年前のことになる
路地裏だけではない
ここいら一帯の地域はもう何年も人の姿はなく
草花や樹木すらない
墓場のような場所であった。
一時はどぶねずみやカラスがいたものだが
それも餌が一切ないことを悟ると
一斉に姿を消していった。
人間によって開発された土地は
人間の傲慢によって一切の生命も許されなくなった
そうして捨てられた土地は数しれず
人間は行き場を失い
今まで欺いてきた神を都合よく求め
空へ手を伸ばしたのであった――――――――――――――
全身を覆う重厚な防具服を身にまとい
路地裏を訪れた青年がいた。
周辺が毒素が薄まっていることを手にもった機械で確認すると乱暴にマスクを脱ぎ捨てた。
投げ捨てたマスクの描いた弧を視線でたどり地面を見て毒素が薄まった原因を知る。
この路地裏では唯一コケ類が細々と生き残り何年もの歳月をかけ
毒素をここまで薄め、空気を正常化させたようだ。
地面の隅に申し訳ない程度であるがコケ類が生えていた。
しかしここに訪れる道中、緑をみたのはこれが初めてであった。
腰に巻いている鞄からおもむろに人差し指大の試験管を取り出し
麺棒でコケ類を少しすくってそれごと試験管の中へいれゴム栓で密封した。
(じいさんに持っていってやろう。)
一番毒素が強いといわれているこの地域で緑の存在を見つけられたことに
気をよくした青年は少しだけ頬を緩めた。
しかしそれも路地裏の壁にある古びて風化しかかったチラシをみつけると
途端に険しいものになった。
憎々しげに歪む顔。
誰に向けられたのかチラシの向こうに憎い存在をみて眉を寄せ睨みつける。
「くそっ!!!絶対ぶっ潰してやる!!!!!」
青年の声は虚しく路地裏に木霊し
彼はイラついたようにマスクを被ってその場を後にした。
路地裏には強引に剥がされぐちゃぐちゃに丸められたチラシが一つ転がっていた。
2011.03.31.