私は家に帰るとベッドにダイブした。涙は出そうになかった。極めて冷静に自分の想いを処理していた。私はきっと彼のことをあいしてなどいなかった。そう思ってしまえば楽になれると思った。でも考えれば考えるほど私は彼との思い出に、確かに両思いだと信じて疑わなかった頃の思い出に溺れていった。
私は彼のことをあいしてなどいなかった。両思いでなければあいすることなどできない。それはただの一方的な好意の押し付けだ。私はふられて息ができなくなるくらいに彼のことを好きだった。好きの気持ちが大きすぎて彼の気持ちを見失ってしまっていたのだろうか。
一件の留守番電話がはいってることに気がついたのは次の日の昼頃。
昨日は朝方まで考えて、そういえば自分は付き合おうとはいったけど好きだとは言わなかったな。ということに気がついた。
なんという傲慢だろう。互いが好きであることを当たり前だと思っていたのだ。私は恥ずかしくて死んでしまいたくなった。また、好きだと伝えなかったことに激しく後悔して、初めて泣いた。小さな子どものように大泣きした。泣き疲れて寝てしまったようで気がついたら次の日の昼になっていた。
馬鹿な私はその時留守電に気がついたのだ。携帯に彼の名前があるのをみて私は心臓が止まるかと思った。なんで?と思うより先にメッセージを聞いた。彼の声を聞くと好きという気持ちが溢れだしてきた。
そしてこれはチャンスだろうかと思った。両思いだと信じて疑わなかった馬鹿で傲慢な私へ神様が与えた真っ直ぐな気持ちを伝える最後のチャンスに思えた。
約束の時間まであと三時間あった。寒いけど私は彼を待ちたいと思った。待ってる間に色々考えようと思ってすぐに支度をして家を出た。痛々しく腫れた目を気づかれないように普段はかけないメガネをかけた。
待ち合わせ場所につくとすでに彼はいた。まだ三時間も前なのに。びっくりして声がでなかった。
私が立ち尽くしていると、それに気がついた彼がこちらをみて驚いたように目を見開いた。
ゆっくりと彼の元に歩きだす。彼と見つめ合いながら。
一歩一歩しっかりと心の準備をして。
彼まで1メートルの距離になって初めて声をかけた。
「昨日伝えてなかったことがあって。呼んでくれて良かった。私ね、「ごめん。」
普段私の話を遮ったことのない彼が初めて私の言葉を遮った。
私の頭の中は昨日と同じ、彼のごめん。という言葉が反響していた。ああ私、自分の気持ちを伝えることさえ許されないのか。そんなに迷惑だったのか。と頭の片隅で思った。
「好き。んで、付き合いたい」
「え。」
「キスして」
彼は何を言い出すのだろうか。昨日の私の悪あがきが通じてしまったのだろうか。それでも嬉しいと思ってしまう自分は馬鹿だろうか。と思った。
「いやだ。キスして」
気がついたらそんなことを言っていた。真っ直ぐ想いを伝えるはずだったのに。
嬉しくてそんなこと頭からぶっ飛んでいた。
唇が重なる。
セカンドキスはファーストキス以上にどきどきしてとても刺激的だった。
唇が重なる前に私の眼鏡と彼の眼鏡がぶつかったのだ。刺激的を超えてすごい衝撃だった。
すごい笑劇だった。
お互い顔を抑えてうずくまる。二人で久しぶりに笑った。
お互いの顔を指差して気がついたらさっきのしっとりとした空気が嘘のように大声で笑っていた。
彼はぼそっと「かっこつかねぇー」と呟いたのを聞いたら愛しさがこみ上げてきて、私からキスしてた。
セカンドキス。
唇に味覚機能は備わってないし味なんてわかる訳ないのに甘酸っぱい味がした。心が味を感知して幸せという唾液が溢れるようにでてきた。
キスの味ってこういうことか。
それから私たちはお互いのサードキスやハンドレットキス(?)くらいまで同時に数えていくんだけど。
まあ今はこの甘い空気に酔いしれたい。
だから、またね。
kiss=幸せの味
END
日付2011.03.04.