ファーストキスは味なんてしなかった。
よくファーストキスは甘酸っぱいとか言われたりするけど私は味なんて全くもって感じなかった。だって軽いキスに普通味なんてする?残念ながら(残念なのか)唇に味覚機能は備わってないし、そもそも私はファーストキスの時に味を感じられる余裕なんてないと思うのだけど。
そんなひねくれた私のファーストキスの感想はやっぱりひねくれてて、「ああこんなものか。」と思うくらいだった。緊張もあったし多分私の唇は震えてたと思う。だけど実際してみると別に対したことじゃなかった。ただ唇っていう身体の一部が相手のそれと触れ合っただけ。
ファーストキスをそんな風に冷静に考えられる私はもしかしたらその先のことさえも今みたいになんの感動もないまま迎えるのかもしれない。
なんとなくそれは嫌かも、と思った。
だからといって私が今までファーストキスになんの夢も抱いてなかったかというとそれは違う。断じて違う。ファーストキスにそれなりの思い入れはあったし割と大切にしてきた方だと思う。実際生きてて18年間、付き合ったことはあってもキスは拒み続けていた。告白されたから付き合っただけで彼らは私にとってファーストキスを捧げられるほど思い入れはなかったから。それに私は怖かったのだ。キスという一線を越えてしまうのが。
それでもあの時は頭が混乱して相手を思う気持ちが強すぎて…仕方なかったのだ。私は確かにあの時彼を本気であいしていたのだから。本気で、あいしていたと思っていたのだから。
高校卒業間際私は長い間思いを寄せていた彼を呼び出した。勝算はあった。彼は確かに私に惹かれていたのだ。
驕りではなく確かにそれを感じていた。彼は私に惹かれていたし私も彼に惹かれていた。
それは暗黙の了解で、私はその関係を満足していた。だけど高校を卒業して離れてしまうことを考えると私に欲が出てきた。「恋人」ということばで彼を縛りたくなったのだ。
私は彼にいった。「付き合おう」と。
「付き合いたくない」
それが私の決死の告白の返事だった。頭が真っ白になった。でも私の女のプライドが、確かにあった勝算が、私に最後の足掻きをさせた。
「キスして。」
私にとって大切なファーストキス。それを捧げれば彼も私に振り向いてくれるかも。そんな打算からきた考えだった。
彼は一緒驚いた顔をして、でも私に顔を重ねてきた。唇にふれる瞬間彼が小さく「ごめん」といったのを私はしっかりと聞いていた。それを聞いた瞬間頭がすっとさめたような気がした。ファーストキスは味なんてしなかった。
謝るくらいなら私と付き合ってよ。ファーストキスを返して。
そう言葉がでかかった。
だけど私は何も言わなかった。
何も言わずに静かに涙を流した。なんだか呆れてしまったのだ。
私は今まで独り相撲をとっていたんだという事実に。
あんなに夢みていたファーストキスをこんな形で迎えた自分に。
泣いている私をみて彼は一瞬つらそうに顔を歪めた。
私はそんな彼をみてにっこり笑って最大限の皮肉をこめて「ありがとう」といった。
First Kiss
2011.03.04