目が覚めるとそこは真っ暗な四角い箱のような場所だった。
暫くぼーっとしていると少しずつ目が暗闇に慣れてきた。横を向くと綺麗に花がいけられているのが見える。
花を見た途端ズキッと頭が痛み私は目をぎゅっと閉じた。
ズキズキと痛む頭をさすっているうちに段々思考もクリアになって自分の状況を飲み込めてくる。
ああ私、車に轢かれたんだっけ―――――
外は快晴だった。
梅雨明けで久々の太陽に気分が高揚していた。
初夏の少し汗ばんだ身体に当たる風が気持ちよく私は自転車の速度をぐんぐんとあげたのだ。
下り坂に差し掛かって更にスピードがあがる。
私は自転車を漕ぐのをやめてペダルから足を上げ真っ直ぐに伸ばした。
空を見上げると飛行機雲が十字の形にみえる。
チェック柄のフレアスカートがまくりあがるのが気になって片手で軽く抑えた。
もし、飛行機雲をみつけないで前をちゃんと向いていたら。
もし、足を直ぐに地面につけられる状態にしていたら。
もし、坂に差し掛かったときほんの少しでもブレーキをかけていたら。
もし、スカートを片手で抑えたりしていなければ。
もしをあげるときりがないけど私は全ての偶然が重なり合って自動車と衝突した。
映画をコマ送りでみるようにゆっくり乗用車が近づいてくる。
運転席で女の人が目を見開いているのが見えた。
体が宙にまう感覚。
私死ぬのかな、なんて考えてそのまま思考はブラックアウトした。
そこまで思い出して私はゆっくりと身体を起こした。
なんでだろう轢かれた割には身体は痛まない。頭がズキズキする程度で他に酷く痛む箇所はなかった。
時計をみると3時を指している。部屋の暗さを考えると今は夜中の3時で間違えないだろう。
窓の外をみると病院の棟と棟をつなぐ空中廊下に人影が見えた。
背がぞくりとする。もしや、これは俗にいうところの幽霊というものじゃないだろうか。
ここは病院なんだから幽霊の一人や二人いてもおかしくない気がするし。
恐る恐る目を凝らすとそれは同い年くらいの少年であることがわかった。
ここからじゃ足があるかなんてわからないしもしかしたらこの病院の患者かもしれない。
じーっと見つめていると私の視線に気付いたのか少年がこっちを向いて目があった・・・ような気がした。
暗いのでよくみえないが明らかにこっちを向いてみている。
私は何かに惹きつけられたように彼から目を離せなくなっていた。
結構長い時間見詰め合っていたように思う。時計のカチっという音に我に返り時計を横目にみる。
もう一度視線を戻すとそこには誰も立っていなかった。
怖くなって布団にもぐる。
私は何も見ていない私は何も見ていない。と念じながら目を閉じ眠りについた。
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日付2011.03.14.