目を覚まし時計をみると3時を指していた。





部屋の中は薄暗い。
ベッドに潜ったのが3時半頃だったはずだから私は丸一日、もしくはそれ以上の時間寝ていたことになる。
ベッドの横に目をやると昨日は置いていなかった写真が花瓶の前に置かれていた。
去年の春、私の高校の入学式に撮った家族写真だ。
両親が病院に来て置いてくれたのだろうか。起こしてくれたら良かったのに。とちょっと思ったけど事故にあった直後だ両親も遠慮してるに違いない。
体を起こし寝すぎで凝り固まった体をほぐすように軽くストレッチをしながら今からどうしようかと思考を巡らせた。
今の今まで寝ていたのにもう一度寝る気にはなれない。あたりを見回しても暇を潰せそうなものは何もない。
消灯時間はとっくに過ぎているのでテレビもつけられない。
そこでちょっと病院を探検してみようかと思い至った。
午前3時なんて誰もいないし怒られることはないだろう。
そっとベットから下りる。素足だがまあ平気だろう。少し、ちょっとだけ、見てみるだけだし。
生まれてこのかた病気一つしたことのない私は病院という特殊な場所に興奮していた。
昨日は半分寝ぼけていてすぐ眠ってしまったけど。
ドアをそろそろと開け病室を抜け出した。


廊下は2メートル間隔で蛍光灯がついていて思ったより明るい。
でも時間も時間のため音は全くといっていいほどしない。
最初は怖くて恐る恐るだったけど1分ほど歩くと慣れてきて幼いころやった探検ごっこをしている気分になってきた。
廊下突き当たりを曲がると今までより少し広い空中廊下にでた。



人が、いる。
そこで私は昨日の夜にみた少年を思い出した。
咄嗟に少年の足元を確認するとそこにはきちんと足があった。
少しだけ安心して改めて少年の全体をみる。
背丈は私より少し大きいくらいだが身体は華奢で大きめの病院服から覗く細い腕には点滴が刺さっていてより一層腕の細さを強調している。

彼は窓の外を食い入るように見ていてまだ私の存在には気づいていないようだ。
何をそんなに一生懸命みているのだろうか。
私は一直線に窓際にいる少年の元へ歩いていった。
「ねぇ、何をみてるの。」


そう声をかけると彼は一瞬肩をびくつかせて驚いたように振り返る。
目があうと私は声を発することができなくなった。
力強いまなざし。先ほど感じた彼の華奢な印象をすべて吹き飛ばすような、他人を委縮させるほどの強さをもったまなざし。



「…。」

「…。」

「…あんた誰?」

「…入院患者、です。」

それが私、山中由美と星澤裕也の最初の出会い。






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日付2011.03.20.